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Web Shop【Living on Reading 読みくらす人のための本の話】
『植田正治作品集』は「図版目録」が面白い!

名作を生んだ時代、フィルムとメディアとプリントと……

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植田正治

『植田正治作品集』(河出書房新社)16,000円(税別)監修:飯沢耕太郎、金子隆一 ページ数:272ページ サイズ:24㎝×28㎝

昨年末、『植田正治作品集』(河出書房新社)が刊行されました。開いてみて思ったのは、新しい!ということ。
これまでも植田正治の写真集や書籍は多々刊行されていますが、新しいと思ったそのわけは、「作品」としての写真を丁寧にひもといているから。これは、文学の世界で言えば「全集」に近い取り組み方だと思うのです。

具体的には、植田正治(1913−2000)が、その写真を「作品」として発表した初出の形態、つまり「制作時点での完成形」にフィーチャーしています。
「完成形」(初出)は、写真雑誌に応募するのか(原稿はプリント)、編集者に求められて写真を提供するのか(原稿はネガフィルム)、それ自体を作品として発表するのかによって、それぞれ印画紙の選び方、焼き方、トリミングも違います。
中には編集者に渡したフィルムが紛失されて、印刷物という「完成形」(初出)しか残っていないものもある…(ので、後年作家が出版した作品集に使われているのはアザーのフィルム、という事態もあるそう)。
それは、印刷物こそが「作品」であって、フィルムはさほど重要ではない、という当時の価値観を映しているのです。

というわけで『植田正治作品集』の正しい見方は、本文ページで、めくるめく植田世界を楽しむと同時に、巻末の「図版目録」を熟読すること!
「図版目録」には、【シリーズ〈童暦〉より。1959−70年。初出=『カメラ毎日』(1962年10月号)「続・秋のうた」(6点)「かげ絵」。『童暦』(「映像の時代」3、中央公論社、1971年)所収。初出は別カット】なんていう記載が、丁寧にされています。
実に『植田正治作品集』は、作品としての写真のありかたを通して、作家が生きた時代をしみじみと感じさせてくれる作品集なのです。

ブックスアンドモダンで開催する植田正治展「もうひとつの風景」(会期:3月8日(水)−4月8日(土))では、作家が59歳、初のヨーロッパ旅行で捉えたスナップの名作品集『音のない記憶』を特集し、オリジナルのヴィンテージプリントを展示します。
最新刊の『植田正治作品集』にある「初出」とどんな風に違うか?
また、ヴィンテージ写真集『音のない記憶』(入荷してます!)とどう違うか??
展示のプリントを間近にごらんになって、ぜひ検証してみてください。

植田正治

『音のない記憶』(日本カメラ社)価格:52,000円〜 エッセイ:堀内誠一 ページ数:180ページ サイズ:24㎝×26㎝

作家プロフィール
植田正治 Shoji Ueda(1913−2000)
1913年、鳥取県境港市生まれ。生涯、鳥取を拠点に遊び心あふれる写真世界を提示し続けた。砂丘を背景とした演出写真はユーモアとシュールな詩情、ポリフォニーを湛えたイメージで、70年代フランスを始めとするヨーロッパでの評価を不動のものとし、Ueda-cho(植田調)は世界共通語となった。ピクトリアリズム、シュールレアリスム、ストレートフォト……あらゆる表現領域を自由自在に横断し、〈童暦〉〈小さい伝記〉〈音のない記憶〉〈風景の光景〉〈白い風〉などの作品集(シリーズ)は、日本の現代写真のたどった時代を映しているといえる。1989年 日本写真協会功労賞、1996年 フランス芸術文化勲章シュヴァリエ賞受賞。

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