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Overseas > Oslo > August,2014

オスロ便り Vol.1
日本との出会い、旅、そして創作のことなど……

text by インゲル・ヨハンネ・ラスムッセン/テキスタイルアーティスト
photo by Torgny Skogsrud

近作「An Attempt to construct a Flower(花を創造する心)」とインゲル・ヨハンネ。オスロ郊外の医療施設のカフェを彩ることになった。

近作「An Attempt to construct a Flower(花を創造する心)」とインゲル・ヨハンネ。オスロ郊外の医療施設のカフェを彩ることになった。

ヒロコ(Books and Modern/キュレーター)との出会いについて

それは6年前、彼女がジャーナリストとしてノルウェー、オスロのデザインミュージアムを取材に来た時に始まりました。そこで私の作品集を目にした彼女は、帰国後、いきなり自力で私の作品集の日本版出版の道筋をつけてしまったのです。

なんと、彼女は事前に青幻舎という京都の美術出版社に出版の企画を通して、その上で私に、初めまして、日本版の出版に興味はありますか、版権の問題をクリアにできますか、というメールを送ってきたのでした。これが日本版どころか、まったくオリジナルな私の日本での作品集(『リテリング─フェルト・アートの世界』2009年)の出版企画の始まりでした!

半年後には、もう、ヒロコは写真家のキヨシ(坂齋清氏)と一緒にオスロに来ていました。当時オスロ郊外で開催中だった私の展覧会を撮影し、私の自宅やスタジオにも通って、創作課程やテクニックを取材し、その間、なんとたくさんお喋りしたことでしょう。そして、すっかり友達になったのでした。

さらに、日本での作品集が出版されてから2年後の2012年の年末……

これまたヒロコの企画主催で、私は東京・青山のスパイラルガーデンで個展を開くことになりました。この展覧会では彼女はキュレーターもつとめ、ノルウェー人女性の私としては、日本人女性というのは、皆こんなふうにひとりで何でもやってしまうのか? 多分違う……、と驚いたのでした。

フェルトアート/インタルジアの手法について

さて、私のテキスタイル作品ですが、これは私自身が試行錯誤しながら確立した、フェルト生地のたくさんのピースをインタルジア(象眼)のように継ぎ合わせて模様を描くもので、一枚の作品に、微妙なニュアンスを生み出すために手染めした何百、何千にものピースを使います。

小さなフェルトのピースは台紙に固定し、最終的には手縫いで仕上げます。私のモチーフというのは、伝統模様の抜粋とは少し違います。むしろそれらを拡大し、形を変え、彩色し、つまり一旦解体してしまってから新たな要素を加えて動きをつけることで、今までにない思想や物語が自由に浮かび上がる、というものです。

日本への旅

古いテキスタイルは私をインスパイアします。個展のために訪れた日本の旅は、宝物の入った引き出しの中を旅するようなものでした。長年、私は日本の織物芸術の伝統の豊かさ、美しさに憧れてきましたし、日本のテキスタイル文化は世界でももっとも魅力あるものに感じられます。実物のテキスタイルを本の中だけでなく、日本の美術館やお店、ストリートで見られるなんて、夢が叶ったというものです。私の作品の中に潜む日本的な要素に気づく方も多いと思います。

2014年6月5日の日記

このところ少し忙しくなってきています。アーティストには思索にふけったり、遊んだり、いろいろ調べたり、何もしなかったり、眠って夢を見たりする時間が必要でしょう。そんな時間があってこそ新しいアイデアがひらめくのですから。今、私はまさにたいへんな状況にあるのです。9月にはアルザス(フランス)のアートフェスで展覧会がありますし、来年の1月末にはノルウェーの素晴らしい伝統織物の文化の街、テレマークの大きなギャラリーで個展があります。テレマークの民族衣装は色彩、模様ともに素晴らしく、私の作品への影響大なのです。

展覧会だけでなく、幸せなことに公共アートの仕事もあるのです。昨日はノルウェーの西海岸の街、ハウゲスンにある病院のリハビリセンターのエントランスホールのため作品打ち合わせに行ってきました。スタッフの方と長い時間、いろいろ話し合って、患者さんにも面会して。患者さんたちは何ヶ月もの間リハビリに真剣に取り組むわけですから、作品は気持ちをポジティブにする、ここで日々を有意義なものにするようなものでなくては、と思うのです。

このサイトのオスロからのお便りとして、これから時々、そんなチャレンジの話もしていきたいなと思っています。

そうそう、つい先週ですが、オスロの南の郊外の医療センターが、その別棟のエントランスにあるカフェにと私の作品を購入してくれました。その医療施設にはたくさんのお年寄りの方々が暮らしています。担当者は「An Attempt to construct a Flower(花を創造する心)」という大きな作品を選んだのですが、そのそのそばに飾るための小さ目の新作も希望されました。大きな作品のテーマをどのように小さな作品に反映させていくか──挑戦です。

【追記】
テレマークの民族衣装に興味がおありでしたら、ウェブでtelemarksbunadと検索するといろいろ情報がありますので見てみてください。

インゲル・ヨハンネ・ラスムッセン/テキスタイルアーティスト
1958年ノルウェー、クリスチャンサン生まれ。83年Swedish Schools of Design卒業。92年ベルゲン国立芸術大学卒業。オスロ湾に浮かぶ小島、ホヴェドヤ島のスタジオを拠点に、創作活動を行っている。2000年よりフェルトアートの創作技法を確立し、多くの作品が国立美術館、王国大使館の所蔵となっている。ヨーロッパを中心に個展、アートフェスの展覧会などでユニークで物語性ゆたかな作品を発表しつづけている。2012年にはスパイラルガーデン(東京・青山)で展覧会開催。www.ingerjohanne.no

インゲル・ヨハンネ・ラスムッセンのフェルトアートの制作風景はこちらでご覧になれます。

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