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オタワ便りVol.2
翻訳のパワーって?──日本での「赤毛のアン」人気に思う

text & photos by二谷美和子

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秋も深まり、街中の木々も色づき始めたオタワ。

こんにちは。前回に引き続きオタワからお便りします。 Books and Modern 乃木坂のお店、9月3日にオープンしたそうですね。オープニングパーティーすごく盛り上がったとか……。ああ、行きたかった……かくたみほさんの写真すてき!

日本はまだ暑いのでしょうか。まだ蝉は鳴いていますか? オタワはもうすっかり秋の気配です。今朝、早朝ヨガに行った時の私の服装は、タートルネックのセーターにレインコート、そして手袋。友達は、すでにダウンを着ていました!

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私は、もう手袋をして外出しています。していない人は、自然と手がポケットに……。

日本人はなぜプリンスエドワード島を訪れるのか?!

さて日本では、 赤毛のアンの訳者、村岡花子さんの生涯をモデルにしたドラマをやっているそうですね(NHKの朝の連続ドラマ。まだやってますよね?) 赤毛のアンといえば、カナダ、プリンスエドワード島! カナダの生んだ世界に誇る文学作品、と、思いきや、赤毛のアンって、 カナダの人々の間では意外と人気ないんです。 私はカナダ人の友達に何度も、『日本人って赤毛のアン好きだよねー。なんで?』と聞かれ、返答に困ったことが(なんで?って聞かれてもねぇ……)。 プリンスエドワード島には 日本人がいーっぱい来るけれど、カナダ人はわざわざそのゆかりの地を訪ねようという、そこまでの情熱を傾ける人は少ないみたい。 聞くところによると、プリンスエドワード島の経済は日本のそれと非常に高い相関関係にあって、それはオーバーオール・カナディアン・エコノミー との相関関係より密接であるとか。ほんとかな?

まぁ、あれかしら、日本人はみんな源氏物語を知っているけど、熱狂的なファンはそんなにいない(少なくとも、社会現象になるほどはいない、でしょ?)っていうのと似てるのかな?(ほら、逆に外国の人のなかに、禅にはまった、とか、三味線に魅せられた、とかいう人いるじゃない?) 日本での赤毛のアン人気の理由には、北米の生活の様子が日本人にすごくエキゾチックで、ロマンチックにうつるっていうのもあるよね。でも、それに加えて、私は村岡花子さんの訳の魅力も、それに大きく貢献していると思うのです。

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シリーズ第7作『炉辺荘のアン』のカナダ版。私はアンの7人の子どもの名前を全部言えます。それを言うとカナダ人は驚く。

英語で読む「アン」は案外つまらない?

実は私は典型的な日本の女の子の例に漏れず、小学生の時、赤毛のアンにはまって、アンシリーズ10巻を読破したくち(全部村岡花子訳)。今でも「アンの7人の子供の名前を全部いえる」っていうと、カナダ人はみんな驚く。それでカナダに来たとき、 アンブックを原書で読んでみようと思ったのです。でも、正直言ってあんまり面白くなかった。 面白かったけど、日本語で読むほど面白くなかった……。

例えばね、アンが、『まあ、もちろんできる限りのことはやらせていただきますわ!』っていうところ、原文では、”Oh, sure. I ‘ll do the best” ってなっているの。なんか、原文だと素っ気ないと思いません? そう考えると、日本の赤毛のアン人気には、原書の魅力もさることながら訳した村岡花子さんの美しい日本語の魅力が大きく貢献しているのかな、って思うのです。もちろん、英語にも美しい英語、というのがあって、モンゴメリの書いた英語は第一級の美しさであったのは間違いないのだけれど、悲しいかな私にはそれ をappreciate できるだけの英語力がなかったんだね。

ルパンは「わし」、で決まり

訳って大事だよねーって思う。 私は小学生の頃アルセーヌ・ルパンにもはまって(「ルパン3世」じゃないよ、彼のことも大好きだけど)、堀口大学訳を全部読んだけど、最初ルパンが自分のことを『わし』っていうのにものすごい違和感を覚えました。 ところが、読み続けているうちにルパンが『わし』っていうのにすっかり慣れてしまって、堀口大学以外の訳ではこのモーリス・ルブランの傑作小説を読めなくなってしまった……。(ほかの人の訳だと、ルパンは『おれ』とか『僕』とかいうんだもの。キャラじゃなーい!!って、思ったね)。 アヒルが最初に見たものをお母さんと思って、そのあとをずーっとついて歩くように、最初に出会った訳で原作のイメージを確立してしまって、ほかの訳を受け付けないからだになってしまうのね……。 村上春樹さんが、英訳で一番難しいのは代名詞、って仰っていたけれど、さもありなん。Iを、わたし、とするか、俺、とするか、あたし、とするか、で主人公のイメージがずいぶん違ってくるものね。

さて、私は何をする人でしょうか?

──ひとつの言葉をもうひとつの別の言葉に訳す、という難しさと奥深さについて、素人が勝手な憶測をしました。 これで、私がカナダで、少なくとも言葉に関する仕事(通訳とか、文学研究 とか)をやっていないことはお分かりでしょう。さあ、それでは私はここでいったい何をしているのでしょう?

二谷美和子/(旅行中) 横浜生まれ。日・英・仏・猫語を自在に操る教養人。海を越えてはすぐに戻ってくるBooks and Modern店主とは違い、ある日、海を越え、以来たまにしか戻らない。運命に身を任せる達人。

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