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Books and Modern Original
ツートンフォールディングバッグ
Designed by URATA Aika / Aika Felt Works
Thursday 10, July, 2014
goods/book
出会いのHIRAMEKI
2010年秋、フィンランドのデザインを紹介する展覧会「HIRAMKI」(リビングデザインセンターOZONE(東京・新宿))が開催された。その際、プロデュースを手掛けたイルッカ・スッパネン、ハッリ・コスキネンだけでなく、新進気鋭のデザイナーにもインタビューをということでコンタクトを取ったひとりが、ラップランド大学を卒業し、現地で活躍している浦田愛香さんだった。
インタビューで「なぜフィンランドに留学を?」という問いに「カイ・フランクに代表されるデザイン、練りに練って考えだされたフォルム、素材感、感性に訴えてくるディテールの魅力に惹かれていました。それに留学経験のある友人の話を聞いて、フィンランドのシステムの充実度や政府のデザイン産業振興策にもチャンスを感じました」と答えてくれている。
フィンランドのひらめき
ここで少しフィンランド、北欧に象徴される社会変革政策について、その背景に少し触れると――
1989年のベルリンの壁の消滅、91年のソ連崩壊……、冷戦終了後90年代のヨーロッパは経済混迷に陥り、特に状況が深刻だったフィンランドは、旧来の先進国モデルであった「工業型社会」から「知的情報型社会」へと政府主導で変革を敢行した。そんななか、付加価値産業としてのデザイン産業振興策は徹底して行われた。現在すでに大御所の観のあるイルッカ・スッパネン、ハッリ・コスキネンといったデザイナーたちは、この政策の中で力を蓄え才能を開花させた世代だ。
2000年以降に留学した浦田さんも、デザイナーとして自立するまでの政府の助成の事例をいくつもあげて説明してくれた。曰く「ワーキンググラント(返済義務のない活動支援金)」、「プロジェクトグラント(事業計画への助成)」、「トラベリンググラント(旅費の助成)」……。
ラップランド発のフェルトプロダクト
2005年にラップランド大学を卒業、Aika Felt Worksを設立し、現在ロヴァニエミを拠点に活動している浦田さん。彼女のデザインするプロダクトには、フェルト素材の醸し出す温かさ優しさだけでなく、強度やフレキシビリティーといった機能的な特性が生かされている。そして、何よりも印象的なのがフォルムの美しさ。とても大切なことだ。
「製品が本当に欲しい人に届いて役割をまっとうしてくれれば、それが一番。フェルトのいいところのひとつは自然に還っていくところ。自分がこの世から消えれば、やがてそのものも静かに消えていく、というようなあり方が理想に思えます」。これは、インタビューでの浦田さんの言葉。
「生きた証を残したい」「記念碑的なものを作りたい」。創造に関わる人のそういう言葉を聞き慣れていた者にとって浦田さんの言葉はちょっとした驚きで、一瞬戸惑った後、文字通り、ほろりとさせられたのだった。
「そのものも静かに消えていく」――詩的なキーワードだと思う。何かを作る時に忘れてはいけない言葉だと思う。(H.W.)
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デザイナー
浦田愛香(うらた・あいか)
1973年大阪生まれ。京都市立芸術大学で環境デザインを学び卒業。デザイン事務所勤務の後、2001年にフィンランドに留学。2005年ラップランド大学工業デザイン科卒業後、ロヴァニエミにてAika Felt Worksを設立。フェルトを素材に日用品、インテリア雑貨を製作している。http://www.aikafeltworks.com
Designer
URATA Aika
1973 Born in Osaka, Japan. Graduated Kyoto City University of Arts.
2005 Graduated University of Lapland. Established Aika Felt Works in Rovaniemi, Lapland, Finland. http://www.aikafeltworks.com