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【Living on Reading 読み暮らす人のための本の話】​
美の周辺に漂うユーモアを味わう2冊 

COWBOY KATE & OTHER STORIESを巡って

河内タカ氏(美術評論・便利堂海外事業部)トークイベントは9月22日(金)開催。

ハスキンス・河内タカ

左:『​COWBOY KATE & OTHER STORIES』(​Vintage 1964) ​ ​(Haskins Press 1975年刊)​ ​ サム・ハスキンス著 ​160ページ 79,800円(税別)
※ 9月23日まで、Books and Modernでは 69,800円(税別)にて販売
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右:『​アートの入口 – 美しいもの、世界の歩き方 [アメリカ編]』(​太田出版 2016年刊) ​河内タカ著 368ページ 18,00円(税別)

美しいものは​、気持ちを引き立たせてくれる。
​写真でも、彫刻でも、風景でも、映画の一場面、小説の一文でも…..ハッとするような美しさに出会うと心が安らぐ。

名作と言われる本や写真集はたくさんあるので、本屋に立ち寄って、少し時間があるとなったら、心静かにページを​めくってみてほしい。
その1ページが、気持ちとピタッと会うことがあるから – というわけで、最近入荷した美しい写真集と本の話です。

■『​COWBOY KATE & OTHER STORIES』

​​1950年代​後半頃から70年代、写真のドキュメンタリー性をフィクションに転用する表現がいろいろな作家によって試みられました。
そのような中、発表された『COWBOY KATE & OTHER STORIES』(初刊1964年)は、サム・ハスキンス(1926-2009)が多重露光やモンタージュを多用して編み上げたフィクションストーリーです。

「とある町にケイトという女の子がいた。ある日、ケイトは事件に巻き込まれ​…..」という、さほど文学的深みはないストーリーなのですが、ケイトを始め、その他の​物語(OTHER STORIES)に登場する女性たちがとにかく美しい!

見開きページ60×40cmに繰り広げられる、女性の伸びやかな肢体、笑顔、睫の影…..
女性のヌードを見て幸せな気分になるのは男性だけではない、と感じさせるモノクロの美しいグラビア印刷の写真集です。

70年代のファッション写真を方向付けたとも言われるこの写真集、発売早々に完売し、その後は古書が高値で動く状況となっていたそう。
ところが1975年、スイスの版元で刷本が発見され、それをハスキンス自らが製本し、私家版として1500部を出版。
数年前、その私家版の一部がオーストラリアの倉庫に保管されているのが見つかり──という経緯で少数部ながら日本へ、そして今秋、Books and Modernに!

個人的には、作り込まれた「COWBOY KATE」以上に、さらりとした詩(以下)があるだけの「OTHER STORIES」の中の「SUNDAY」が素晴らしいと思います。

ハスキンス・河内タカ

Sunday is the end and the beginning when the wind is still and only parsons work.
The Sunday grass is greener. And all girls dream.

日曜日は、終わりで始まり。風も止み、働くのは牧師だけ。
日曜日の緑は、より深く、女の子たちは夢を見る。

いいなぁ、と思う。
こんな長閑さとユーモアがあるからこそ、ハスキンスの女性たちは輝くのだろう。

■『​アートの入口 – 美しいもの、世界の歩き方 [アメリカ編]』

河内タカさんの『アートの入口 – 美しいもの、世界の歩き方 [アメリカ編]』は、​​​​​​​​​​​​​​​​​​彼が、ニューヨークから帰国した2011年頃から執筆したコラムをまとめた本の第1弾(第2弾は [ヨーロッパ編] / 既刊)。
具体的かつ実際的なアートの解説と、現実的なタカさんの感想と分析が、人に読んで聞かせたくなるほど面白い。

まんべんなく面白い中で、かなり限定的な引用ですが、ニューヨークのギャラリーでマイク・ケリー(1954-2012)のインスタレーション – 床にぽつんぽつんと既製品のぬいぐるみがおかれているだけ、というのを見た時のタカさんの感想がいい。

「なんとも拍子抜けするようなこの作品 (中略) 、ぬいぐるみを目の前にして、これはなにか手が加えられているはずだし、隠された深い意味があるに違いない、と食い入るように観察したのですが、どれだけ見ても、そこにあるのはくたびれたぬいぐるみ以外の何ものでもなかったです。
唯一異なっていたのは、それを見た場所が、ギフトショップやオモチャ屋ではなく現代アートのギャラリーだったということですが…..」

サッと見て「分かった」りしない、古ぼけたぬいぐるみを「え?」と思いながら見つめ続けるタカさん。
従来の美術評論の難しぶったイメージを突き崩すこの呑気さ、知性に裏打ちされたユーモア。

実は、私、タカさんのことを便利堂(印刷・出版社)の海外事業部の人、と思っていたのですが​、彼は、2010年頃までニューヨークにいて、パティ・スミス(パンクの女王!)やリチャード・プリンス(もはや大御所写真家)の日本展など画期的かつ斬新な企画を手掛けるキューレーターでもあったのでした。

そんなタカさんに届いたばかりの新品美本『COWBOY KATE….』を自慢したら、
「この本の前、50年代にエルスケンの『セーヌ・左岸の恋』があって、70年代だと荒木さん(荒木経惟)の『センチメンタルな旅』があるでしょ? 荒木さんも、ドキュメンタリータッチだけど、ストーリーを組むために大分、編集したって聞いたよ」と。

そして、「ウィリアム・クラインもさ…..」と続き、ブルース・デヴィッドソン、ウォーカー・エヴァンスなど現代アメリカ写真を代表する写真家を次々とあげて、よどみなく、現代写真の流れを解説してくださったのでした。

私は、タカさんにお願いしました。
「Books and Modernでトークイベントをお願いします」。

というわけで、9月8日(金)と22日(金)の夜、Books and Modernでは、河内タカさんにとくに写真について語っていただくことになりました。
(8日は「コロタイプ」という印刷技法について、植田正治事務所の増谷 寛さんとの対談です。)

きっと、楽しいお話が聞けることと思います。
私は、とても楽しみにしています。(W.H.)

 

 

 

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