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ハノーファー便り Vol.2
自宅リビングデザインアートプロジェクト「クーブス M 33」【後編】
text & photos by 小町英恵/ジャーナリスト
Saturday 25, October, 2014
Hannover
第1回の前回は、地元ハノーファーのアーティスト、ディーター・フレーリヒさんによる「Kubus M 33」のインテリアデザインとオブジェについてお話ししました。今回は、文豪ゲーテ(1749-1832)の世界を彷彿させるアートや1980年代のドイツ・アヴァンギャルド作品をご紹介します。
ロシア、ドイツ……時空を超えたアートの対話
リビングダイニングには、多目的に使えるローラー付きテーブルとベンチのアンサンブル(ブナ材)があります。テーブルは黒いリノリウムのトップで手入れがとても楽です。ロシアの作曲家ショスタコーヴィチと、詩人マヤコフスキーが椅子の背になった創作家具(ジークフリート・M・ジニウガ作)や、フォルカー・アルブスのシャンデリアは1980年代末のドイツのアヴァンギャルドデザインのドキュメントでもあります。
キッチンもオープンで、配管もゴミ入れもしっかり見えます。食器棚は基本キューブを4個組み合わせたようなバージョンが4体、衛生的に中もラッカー塗装しました。訪問客によくTVも電子レンジもないとびっくりされます。
寝室のオリジナル家具はフレーリヒさんデザインで、RALのストーングレー(*RAL=ドイツの標準色票)に統一されています。写真は私用のベッドですが、脇に見えるのはモダンの萌芽期のヴィンテージの木の椅子です。写真では見えませんが、ナイトテーブルもベッドと同じ色のキューブです。ベッドの下部は大きな引き出しになっています。
壁の作品には「すでに消え失せたものが私にとって現実となってくる。」(手塚富雄訳)というゲーテの『ファウスト』の中の一行が記されています。
天井の照明は天井にコンセントを付けることでプラグを繋げた電球を簡単に差し込むだけという取り付け簡単でしかも格安なDIYものです。オープンなクローゼットも格安デザインで梁の裏側にはめ込んだネジにピアノ線の輪を吊るしてハンガーを掛けただけなのですがピアノ線の長さをバリエーションすることでリズミカルに服が下がります。
19世紀と21世紀が交錯する吹き抜け
吹き抜けのエントランスとL字型階段はミニマルなデザインで小さなギャラリーの雰囲気です。帰宅するとフレーリヒさんの、花瓶には使えない“花瓶トリオ”のウォールオブジェや、コンスタンティン・グルチッチの、今では残念ながら廃番になってしまったライブラリーステップがお帰りなさいと迎えてくれます。
ステップには19世紀末の装幀デザインのゲーテの『ファウスト』を置いて、日々通りがてらにページを開いて数行読んだりできるようにしています。
踊り場にはコンスタンティン・グルチッチがローマのゲーテの家での展覧会用にデザインしたグレーのショーケースがあり、19世紀にローマのお土産だった大理石をアレンジしました。そしてグルチッチのステッキのオブジェが手すりに掛けてあります。ゲーテのイタリア紀行のルートをもとにデザインしたイタリア地図ステッキ──まるで今さっき、このステッキを手にイタリア旅行から帰ってきたばかりのように。
そして、ふと目を上に向けると、日本画に新しい表現の可能性を開いた町田久美さんの銅版画『宵』との対話です。写真ではちょっとわかりませんがスカートの部分に接着されたスワロフスキーのミニクリスタル達がかすかに煌めいているのです。(K.H.)
文中*は編者注
小町英恵/文化ジャーナリスト・フォトグラファー
青森・八戸出身。早稲田大学第一文学部卒業。在独30年。デザインを主テーマに文化の創造に関わる人とプロジェクトの取材を続ける。デザイン誌『AXIS』等に寄稿。著書(独語)に『Herrenhäuser Gärten』(ヘレンハウゼン王宮庭園)、『Das Fest der Götter 』(神々の祝祭)、訳書(独)に三浦哲郎の短編『赤い衣装』。日独文化交流プロジェクト「SAKE8」でiFコミュニケーションデザイン賞受賞。ヨーロッパのホテルインテリアを紹介するコラムも連載中。
http://www.cera.co.jp/column/hotel/
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