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ハノーファー便りVol.3
イデオロギーや宗教を超えて、街に、世界に、寛容と自由を!

text & photos by 小町英恵/ジャーナリスト

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今年は55歳にして生まれて初めてデモ行進に参加しました(©Neue Presse Hannover 写真は2015年1月撮影)。ドイツへの移民や難民を拒否し極右との関係を危惧される反イスラム団体がハノーファーの中心街でデモするということで、それに対して「ハノーファーには人種差別的思考が入る余地はない、ハノーファーは寛容と自由の街だ!」と、州首相や市長を先頭に約19000人もの市民が参加して歴史的なデモとなりました。
モットーは「ブラウン(ナチの制服の色)でなくカラフルに(多文化を象徴)」。小さな子供からおじいさんおばあさんまで、シュレーダー前独首相も混じってみんな仲良く街を練り歩いて最後に広場で集会といういたって和やかなデモでした。

集会ではジョン・レノンの「イマジン」も大合唱されました。パリで起こった連続テロ事件の犠牲者への追悼に「ハノーファーはシャルリ」と黙祷も行われましたが、その時に瞼の裏にふと浮かんできたのがこの「レクイエム」のシーンでした。

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息絶えるダンサーの頭を優しく包むカウンターテナーのヴァラー・サバドゥス、悲しくとも慈悲深く美しい歌声を思い出さずにはいられませんでした。クリストフ・ネールが演出した「レクイエム」は去年の夏にハノーファーのヘレンハウゼン芸術祭で初演されました。南アフリカ出身の現代作曲家リチャード・ファン・ショーアの「Kenge(見解)/一つの答え」とモーツァルトのレクイエムを組み合わせた”マルチメディア瞑想パフォーマンス”で、ヘレンハウゼン王宮の奥行き80mもあるバロック建築の大空間全体が壮大な舞台となりました。

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モーツァルトのレクイエムは混成四部合唱に女性2人男性2人のソロ歌手によるコンサート形式が上演の常かと思います。が、ここではテルツ少年合唱団にソプラノとアルトのパートもカウンターテナー(サバドゥスとテリー・ウェイ)という究極の(私個人的にですが)構成です。

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レクイエムでは「あふれる光に包まれる」というイタリアの現代詩人ジュゼッペ・ウンガレッティの詩句、絶えることない永遠の光で死者が照らされるようにという祈りも歌われました。デモの夜に帰宅してからテロの犠牲者を照らしてあげたい光を私のフォトアルバムの中から探してみました。ル・コルビジェのロンシャンの礼拝堂の中で発見した穏やかな光です。

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ほんの数分だけのダイジェストですがネットに「レクイエム」の予告編がまだ残っていました。どうぞご覧になってみて下さい。

小町英恵/文化ジャーナリスト・フォトグラファー
青森・八戸出身。早稲田大学第一文学部卒業。在独30年。デザインを主テーマに文化の創造に関わる人とプロジェクトの取材を続ける。デザイン誌『AXIS』等に寄稿。著書(独語)に『Herrenhäuser Gärten』(ヘレンハウゼン王宮庭園)、『Das Fest der Götter 』(神々の祝祭)、訳書(独)に三浦哲郎の短編『赤い衣装』。日独文化交流プロジェクト「SAKE8」でiFコミュニケーションデザイン賞受賞。ヨーロッパのホテルインテリアを紹介するコラムも連載中。

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